「おれってホモなんだってねえ」なんて言うくせに「そうなんでしょ」と念を押すと「さあ、どっちだと思う?」と、ニヤニヤ笑っているのだ。日本航空が世界じゅうに張りめぐらしている『噂のネットワーク』によって「サンフランシスコで麻薬の抜打ち検査があった時、身体検査でテッちゃんが赤いブリフを着けていたことがパレた」というような情報も流されてきた。赤いパンツなど、その頃はまともな男の履くもんじゃなかった。いや、赤だけじゃなく色もののパンツそのものが特殊に見られていた時代であった。け!っ!赤いパンツだってぇ、と噂を聞いた連中がのけぞったとしても、けっして不自然な反応とはいえなかった。赤パンが本当かどうか、山口というパーサーと二人で確かめてみようということになり、高輪の私のアパートにテッちゃんを連れ込み、酔わせたあげく布団に寝かせ、熟睡したころを見計らたかなわみはか「ヨしかし、意外なところで彼は正体を見せた。ずっと後になって、南回りヨーロッパ線で彼とカラチのホテルで会った時のことだが、たぶん私がそんなことに気がつくわけはないと油断したのかもしれない。たまたま彼の部屋の前を通りかかり、聞いているドアの向こうで逆立ちの練習をしている彼に呼び止められ、入って行って一緒に逆立ちしていたら、逆さになった私の目に、机の上のあるものが写ったのである。それはミツコというオーデコロンの瓶だった。ホモの友だちから聞いたことがあったのだ。コさんねえ、僕たちってどういうわけか、ミツコの香りが大好きなのよ。どうしてだか分この時、ようやく謎は解けたのであった。ただし、彼がなぜ私をホモのパーティに連れて行ったのかは、依然、謎のままであった。そういう時は、出会い系 アプリ で出会ってみたらよいです。サンフランシスコのホモ人脈ミツコのことを教えてくれたホモのケンちゃんは、テッちゃんのようにケチではない。最初から堂々とホそであることを、私に教えていたからだ。ケンちゃんと知り合ったのは、六本木のプレーヤーズというピアノパlで、お金持ちのおじさまたちと遊び歩いていた私は、そういうおじさまのひとりに連れて行ってもらったのだ。-つ--oふしゃれこぢんまりとして、おいしい料理を出す酒落たクラブだったが、その店のメインはほとんど店内の半分を占める白いグランドピアノで、ケンちゃんはその前にすわって弾き語りをしていた。なぜそういう気になったのか、彼は初対面の私に向かって、自分は女に興味はないと言ったのです。

ケンちゃんは、これ以上嬉しいことはないってなふうに、椅子からピョンと飛び上がり、「そうお、じゃまたね」と弾むような芦で言った。前にテちゃんに連れられてホモのパーティに参加したことを瞬間的に思い出したのだ。悪いね。邪魔しちゃって。はっきり「ぼく、彼とそのう、あれだからあれして」と言ってくれれば:::、やっぱり帰らないで嫌がらせやってたかもしれない、私の性格じゃ。さんざんジラして部屋を出た私は、男同士がカラみあうところを想像しながら、ちっとも興奮しないでエレベーターのボタンを押したのだった。同性愛者宿泊朝助罪エレベーターを降りるとすぐにマネージャーが立っていた。真直ぐこっちを院んでいる。顔には、この、同性愛者宿泊帯助ものめと書いてある。しかしマネージャーは、ただ怒りをこめた眼でこちらを腕むのみで、結局何も言わなかった。私はコソコソと玄関を出る。まあそんな怖い顔しなさんな、愛は愛だからね。ところがそのマネージャーの顔を見ていて、私はアッと思った。しかし、こうウジウジされるとすぐにヨlコ・ド・サドと化すのが私の常なのである。ひらのるのだ。閃いたのだ、瞬間的に。でも連れて行かれたのは一軒家でしょ、そんなところでパーティゃったって別に支障はないんじゃないの?と考えるのは甘い。アメリカというところは、どういうわけか近所に一人は必ずといっていいほど、お節介なばあさんが住んでいる所で、ちょっとでも怪しい素振りを見掛けると、間髪入れずにやってきて、チッチッチッと舌打ちしながら人差し指を立て、横に振ってみせ’’,お節介ばあさんどもの目には、人類を生産するあてのないホモ行為は、悪魔の所業としか写らない。そのころハワイ州でホモが法律に引掛かったかどうかは思いだせないが、たぶんそれが理由で私が呼ばれたのではないだろうか。そうだ、きっとそうだ。おそらく彼らは次の夜もパーティを聞いたに違いない。今度は純粋に男だけ、女は抜きで。前夜、女がとにかく一人だけでも参加しているのを目撃してれば、次の夜来なくても、お節介ばあさんはさほど怪しまないはずである。それにしても私は、よくよくホモ男どもに利用される体質のようである。ついでに、この時起こったアルカトラス囚人脱走事件だが、ついに脱走囚は捕まらなかった。海から死体も上がらなかった。それでそんな刑務所じゃ用をなさない、ということで、かつては一九六彼との一年ほどのつきあいで、当然彼は、「ヨ年、すなわちこの事件があったすぐ後に閉鎖されてしまった。

つまり女は部屋に連れ込んでもいいが、男はだめだよと言っているのだ。ということは、ヶンちゃんは密かに男を連れ込んでいるということである。それをマネージャーは知っていて注意している、ということである。ホモには寛大なサンフランシスコでも、一般のホテルは、なかなかうるさいのであった。そこでケγちゃんは、私につきあわせようとした。つまり、なんと今村君はケンちゃんの相手であったらしいのだ。秋田氏ではなくケンちゃんの相手だったのだ。秋田氏はそっちのヒトではなかったわけだ。そしてまた、由美子ともなんでもないことが、ケンちゃんの部屋での報告により分かった。由美子が一方的に惚れて、サンフランシスコにいる秋田氏を追いかけてきたんだというのである。本日朝の喧嘩は、もういつものことで、毎度冷たい秋田氏の態度を由美子がなじっていたんだそうである。そうなんですか、そういうことだったんですか。そうするてぇ!とお、などと天井を見上げていると、どうも二人の様子がおかしい。ソワソワしている。ソワソワしながら私が乗っかっているベッドをチラチラ見るのである。私だってパカじゃない。いちはやく二人の心中を察する。と、察知することはしたが、待て待て、ここですぐ出ていっちゃ面白くもなんともない。もうちょっとねばってイライラさせて快感を味わおうと、秋田氏と由美子のこれからの展望についてなど、ケンちゃんと今村君にとっては、まったくどうでもいい話を延々としたりなんかして、サディスティックに居すわる。私がベドを占領しているので、ニ人はそれぞれ椅子にすわっているわけだが、見ていると、どちらかというとケンちゃんのほうが、よりソワソワしている。立ったりすわったり落ち着かない。時計を見ればもう五時、ケンちゃんの勤務時聞が追っている。こりゃあせるわなあ。勤務が終わってから再度連れ込むということになると、あのマネージャーの目をどうやって逃れるか考えなきゃならないし、こりああせる。そのうちケンちゃんは、私の質問にだんだんチグハグな返事をするようになってきた。心ここにない証拠である。おまけに息遣いも荒い。たぶん心拍数も上がっていることだろう。かたや今’、村君はと見れば、なんだか、やるせなさそうな恥ずかしそうな仕草で、今にもハンカチでも取り出してロの端にくわえそうな気配である。よしょし、じゃここらで退散してやるか。「ケンちゃん、じゃ私帰るからね」

そうか、秋田氏は由美子さんと怪しかったのか。そして今モメている。われわれの耳を少しは気にしているらしく、トは押さえめである。話の内容がよく聞こえない。聞こえない話ほど聞きたくなるから、私はすぐにボイに新聞を注文した。映画でよくやっている三流スパイ盗みきさみみ聞き方式、すなわち広げた新聞の陰で聞耳を立てるという、あのやり方を採用しようと思ったのである。しかし新聞を聞いて驚いた。なんと紙面には大きく「アルカトラスより三人の囚人が脱走」と出ているではないか。アルカトラスといえば今、目の前、ほんの何百メートルか先、サンフランシスコ湾に浮いている刑務所島である。そこから囚人が脱走したとなると、男と女がどうしたというようなことは、現末さまっもいいとこだ。男が女を刺し殺し、ということにでもなれば重さの比重も同じになるだろうが、今はまだ刺し殺してはいない。モメてるだけなのである。だとすれば、命をかけて冷たい海に飛び込んで必死の脱出行を試みた事件のほうが、注目する価値がある。だがしかし、その事件は昨夜起こって、今はサンフランシスコ湾も静まり返っている。コースええすると、当面はやはり男女の痴情のモツレに精神を集中すべきで、私の神経は再び秋田氏と由美子さんに戻ったのであった。ヨーコ・ド・サド広げた新聞からチラチラと目を横へ走らせると、由美子さんは終始うつむきがちで何やらボソボソ言っている。秋田氏は、サングラスをかけた端正な横顔をサンフランシスコ湾に向けたままだ。あいかわらず由美子さんの声が低すぎて、何を言っているのかほとんど聞きとれない。いイライラする。第一、これではこのグループと円滑につきあえないではないか。グループと円滑につきあうためには、人間関係は正確に把握しておく必要がある。でないと、どんな突拍子もない勘違い発言をしてしまうかもしれないのである。だからこの際、思いきってケンちゃんにそこらへんのことを聞くことにしよう。するとケンちゃんは、教えてやってもいいけど条件がある、と言った。ホテルの部屋まできてほしい、ただし今村君も一緒、つまり三人で、と言うのだ。ヘンなこと言うなあと思ったが、すぐピンときた。実は前回のフライトの時、ケンちゃんに誘われるままに、彼の部屋でお茶でも飲もうと(ホモだから部屋で二人きりでも大安心〉、カウンタlγにらだよ」とケンちゃんのほうを腕みながら言ったことがあったのだ。

飲みながら観察していると、どうもこの図式は当てはまらないようだつた。なんと、まず藤村氏はケンちゃん系列の人で、女には興味なし。由美子さんがサンフランシスコに来ていることを知って、世界旅行の途中で連絡しただけ。では由美子さんは、なぜサンフランシスコに来ていたかというと、その真相が分かったのは、それから何固めかのフライトで、サゥサリトというサンフランシスコの郊外の、東京近辺でいえば鎌倉みたいな場所に食事をしに行った時だった。サ?サリトといえば、今では日本でも有名だが、その頃は、町に飽きた芸術家たちが少しずつ集まってきてコロェーを作りつつある、ひなびた漁村という程度だった。ひなびてはいるけれど、さすがに芸術家の村である。質のいいレストランやホテルがいくつか障やあって、徹夜で遊んだあと、そういう所で朝食を食べるのが、町の遊び人たちの流行りになってそんなホテルのひとつにアルタミラという、南欧風の白いホテルがあった。-レストランのあるシスコ・ブルすごいのはその演出で、鉢植えの木に飾られたなだらかな坂を、例の染まりそうなサンフランの空を仰ぎながら登っていくと、まず飛び込んでくるのは強烈なピンクのテーブル掛けである。まわりが白とプル。その中にショッキング・ピンクとくれば、徹夜に疲れた目は、いやでもカと見聞かされる。さらに、テーブルの上の小物はすべてピン夕、角砂糖にいたるまでピンクで統一されているとなると、参りましたという感じで、しばし無口になるのであった。無口になって目をパルコェーの向こうへ転じれば、そこには空と海の青が、待ってました、とばかりにとどめのパンチをかましてくれるのである。もうこうなれば濃いコーヒーを頼んで気を取り直すしかない。徹夜で騒いでいたわれわれも、サンフランシスコの遊び人の真似をして、というよりむしろピンクの大好きなケンちゃんに連れられて、そのホテルへ行ったのである。よど-行は夜の漉みを体内に溜めたようなくすんだ顔で、突き抜けるように明るいバルコニーへと登っていった。まぶしくてサングラスをはずす気にはとてもなれない。メニューを広げる前に、まずコーヒーを注文する。と、その時:::。私の耳に、ん?何やら秋田氏と由美子さんのそメる気配が伝わってきたではないか。どうしたどうしたと好奇心いっぱいの耳をそっち方面に解放してみれば、どうやら痴話喧嘩のようである。りゃりゃ、秋田氏は今村君といいところに行ったのね。